侍戦隊シンケンジャー、その「第一幕」の「第一話」としての完成度を説く。

今年2019年2月15日、あるテレビドラマが放送10周年を迎えた。

その名は「侍戦隊シンケンジャー」。

 

本作は日本を代表する特撮ヒーローシリーズである「スーパー戦隊シリーズ」の第33作で、今やすっかり売れっ子俳優となった松坂桃李氏のデビュー作にして初主演作でもある。

シンケンジャー」には数多くの魅力があり、私自身数ある戦隊シリーズの中でも本作を高く評価しているのだが、今回着目したいのは第一話(番組内では「第一幕」と呼称)の完成度だ。

 

結論から言うと「第一話としてほぼ完璧な出来」だと思っている。

言うまでもなく、「第一話」というのはテレビドラマにおいてとても重要な存在だ。そこで番組の魅力をしっかりと伝えて、視聴者の心をしっかりと掴まなければならない。それはジャンルや対象年齢がどうであれ共通の課題だろう。

そして番組の魅力を伝えるためには、まず番組の内容を確実に伝えなければならない。具体的に挙げるなら、

・主要登場人物

・世界観

・基本設定

の主に三点となるだろう。

 

では「シンケンジャー」がいかに優れているのか、実際に第一幕、「伊達姿五侍」の内容を紐解いてみよう。

(注・東映公式Youtubeチャンネルでの配信は2019年8月30日まで。)

 


侍戦隊シンケンジャー 第01話[公式]

 

第一幕「伊達姿五侍」

第一幕「伊達姿五侍」

 

 

シーン1

少年が壁に向かってキャッチボールをしている。

すると跳ね返ったボールが地面に置いてあった荷物の隙間に入り込んでしまう。

ナレーション「隙間。それは、この世とあの世の間。」

少年がボールを取ろうとする。

ナレーション「化物たちの入口であり、出口。だから、決して覗いてはいけない。」

少年の手を何かが掴む。

ナレーション「隙間の向こう、三途の川から外道衆がやってくる!」

荷物と壁の隙間から無数の化物(ナナシ連中)が出現。

怯える少年のもとへ赤い動物のような物体(獅子折神)が現れ、化物を蹴散らす。

赤い物体が誰かの手に収まる。

彦馬「逃げるんだ。さあ!」

老人(日下部彦馬)が子供をつれて逃げると、赤い物体を手にした人間が筆のような道具を構える。

間髪入れずに煙幕を投げる黒子たち。

煙幕が晴れると、筆のような道具(変身アイテム・ショドウフォン)を構えた人間がいた場所には赤い戦士が立っていた。

彦馬「外道衆共、よーく聞け!こちらに負わすのは、三百年の昔より、貴様達を葬ってきた侍の末裔、志葉家十八代目当主であるシンケンレッド・志葉丈瑠様だ!」

うろたえる化物たち。

ナナシ連中「志葉!?」「シンケンレッド!?」

彦馬「さぁ、恐れ入って隙間に帰るか、殿の刀の錆となるか、しかと…」

シンケンレッド、武器の準備をする。

レッド「ジイ。」

彦馬「はっ!」

レッド「長い。」

面食らう彦馬。

彦馬「いやしかし、戦いという物はまずは…」

シンケンレッド、刀(シンケンマル)を構える。

レッド「参る。」

 

 

 

ここまで番組開始からほんの1分27秒。しかし、この時点でかなりの内容が詰まっているのがおわかりだろうか。

まず最初のナレーション、

「隙間。それは、この世とあの世の間。化物たちの入口であり、出口。だから、決して覗いてはいけない。隙間の向こう、三途の川から外道衆がやってくる!」

この言葉とその間流れる映像を交える事で、

・外道衆という化物が存在している。

・住処は三途の川。

・物と物の間に生じる隙間を介して三途の川から人間界に侵攻してくる。

という番組の世界観の一部と、悪役に関する基本設定を一気に説明している。なお、この時点では番組開始からまだ30秒しか経っていない。

 

次に着目すべきは志葉家の家臣、日下部彦馬の台詞だ。

彦馬「外道衆共、よーく聞け!こちらに負わすのは、三百年の昔より、貴様たちを葬ってきた侍の末裔、志葉家十八代目当主であるシンケンレッド・志葉丈瑠様だ!」

この台詞から伺える事は主に下の四つ。

・三百年前から侍達が外道衆を退治してきた。※1

・その末裔が志葉丈瑠。※2

・丈瑠は志葉家十八代目当主の座にいる。※3

・シンケンレッドという赤い戦士とのしての姿も持つ。※4

と、世界観が補完されつつ、今度は番組の主人公に関する説明がなされた。

スーパー戦隊シリーズは変身ヒーロー番組である以上、主人公である変身ヒーロー、そしてそんなヒーローと対立する悪役が二本柱である。テレビドラマの第一話として番組の基本的な内容を伝える際には、この両者の説明が命だ。

その点に立ってみると、シンケンジャーは番組開始からわずか1分27秒でヒーローと悪役に関する基本的な情報を的確に説明し、最終的に

 「この番組は侍と外道衆の戦いを描いていくものである。」

と、番組の内容が一言で要約できるようになっているのだ。

これは見ている視聴者にとっても非常にわかりやすい。

ここから番組は主題歌に合わせてシンケンレッドの大立ち回りに突入するのだが、番組の基本構造は既に視聴者の頭の中にある。故に視聴者は置いてきぼりになる事なく、安心してバトルを楽しむ事ができるのだ。

 

では、時間を少し進めて3分08秒。ナレーションによるタイトルコールが終わってからのシーン。

シーン2

彦馬「殿、お見事!」

シンケンレッドが変身を解いて志葉丈瑠に戻る。

彦馬駆け寄る。

彦馬「いやお見事でしたぞ殿!このジイも、全身全名でお育てした甲斐があるというもの。ハッハッハ!」

丈瑠、黒子が出した手拭いで汗を拭く。

彦馬「しかしながら、恐らく奴の目覚めが近いかと。ここは先手を打ち、シンケンジャー結成のご決断を!」

丈瑠「その話はいい!」

丈瑠、黒子が出したお茶を飲む。

彦馬「いや、外道衆を侮ってはなりませんぞ! いずれお一人では手に負えぬ時が必ず参ります。その時のために、育てられた侍は四人。忠義の家臣として、戦う日を待っております!」

丈瑠「とにかく、俺一人でいい!だいたい、忠義とか、家臣とか、時代錯誤なんだ!帰る。」

ここで3分58秒。この50秒間では主に以下の情報が提示されている。

・外道衆には何か大物がいる。※5

・侍は志葉家の当主だけでない。※6

シンケンジャーという侍の戦闘集団が存在する。※7

シンケンジャーの構成員は殿(丈瑠)と家臣四人の計五人。※8

・丈瑠は家臣の招集には消極的。

ヒーローと悪役という二本柱を通して、番組の三大要素(登場人物、設定、世界観)を説明するという方針は変わっていない。最初の1分27秒で伝えた「ヒーローと悪役に関する基本的な情報」とは具体的にはシンケンレッド・志葉丈瑠と敵組織・外道衆全体についての情報だ。

そして番組はここから、シンケンレッド率いるシンケンジャーの主要構成員、そして外道衆の主要構成員に関する説明に入る。上に挙げた要点はいずれもその伏線だ。最初の情報説明から有機的に次の情報説明に繋げているのがわかる。

 

それでは早速最初の伏線回収を始めよう。4分04秒のシーンから、

シーン3

隙間を介して三途の川の岸から丈瑠達の様子を見ている化物(骨のシタリ) がいる。

シタリ「う~ん…」

どこからか響く三味線の音色。

シタリ「やっと目覚めたらしいな…」

川の底から船(六門船)が浮上してくる。

船の中で何者(薄皮太夫)かが三味線を弾いている。

シタリが船内に入ってくる。

シタリ「おおっ、久しぶりだね薄皮太夫。おや、ドウコクが見えないよ。おかしいね、奴が目覚めたから、船が浮き上がったんじゃないのかい?」

薄皮太夫「さぁねぇ、わちきはドウコクのお守りじゃない。」

シタリ「いや、そう言わずにさぁ、あの血祭ドウコクをなだめられるのは、お前さんか酒だけなんだから。」

ドウコク「うるせぇぞシタリ!俺はここにいる。」

船の奥からドウコクが出てくる。

ドウコク「眠気覚ましにその無駄にでけぇ頭二つに割って、丼にしてやろうか!?」

シタリ「いやぁ、こりゃ随分機嫌が悪いな!これ誰か!ドウコクに酒をやっておくれ!」

ナナシ連中がドウコクの杯に酒をやり、ドウコクが飲む。

シタリ「どうやらバラバラになった体も、元に戻ったねぇ。」

ドウコク「手間取っちまったぜ…あの忌々しい志葉一族のせいでよぉ。皆殺しにしてやったのが、せめてもだ…」

シタリ「いやそれがさぁ、生き残ってたんだよ。シンケンジャーがねぇ。」

ドウコク「!?」

太夫、演奏を止める。

薄皮太夫「本当かい!?」

ドウコク「ほほう…それじゃ何か?俺のやられ損だってのか!」

ドウコクがシタリに詰め寄る。

シタリ「ああ、いやいやいや…そそそ」

そこへ別の化物(カゲカムロ)が現れる。

カゲカムロ「何だ何だ、大将が目覚めたっていうから祝いに来て見りゃ、葬式みてぇじゃねぇか!どうした?」

ドウコク「うるせぇっ!」

ドウコクが床に刀を叩き付けると船が揺れる。

ドウコク「こんな胸糞悪い話が、あるかー!」

シタリ「お前さん。ちょっと行って、人間に悲鳴上げさせてきな。」

カゲカムロ「はっ、大将の憂さ晴らしってわけか。引き受けた!」

 ここで6分35秒。約2分半の間では以下の事が伺える。

・彦馬が言っていた奴とは血祭ドウコクの事。

血祭ドウコクは「大将」と謳われている外道衆の親玉。

・ドウコクはかなりの激情家で薄皮太夫や酒の力でもないとなだめられない。

・シタリも外道衆の中では他の者に指示を出せるだけの立場にはある。

・ドウコクは志葉一族やシンケンジャーと因縁があった

ドウコク自身もバラバラにされたが、シンケンジャーを皆殺しに追い込んだと誤認するほどの激闘を繰り広げた。

彦馬の言っていた「奴」が血祭ドウコクである事が早速明らかになった。また、外道衆の主要構成員、即ち悪役のレギュラーがドウコク、シタリ、太夫の3人である事も示されている。

 

次は残りのシンケンジャーに関する伏線回収だ。6分39秒のシーンから。

シーン4

歌舞伎舞台で青年(流ノ介)が稽古をしている。

そこへ一人の男性が駆け寄る。

流ノ介の父「流ノ介。」

流ノ介「父さん。」

流ノ介の父「今日の本番は頑張りなさい。最後になるかもしれないから…」

流ノ介「え?」

驚く流ノ介に父は「水」と書かれた物体(龍折神)を見せる。丈瑠が持っている物と似ている。

流ノ介の父「どうやらその時が近い。」

流ノ介が受け取る。

流ノ介の父「我が池波家は代々志葉家に仕える家柄。心得は全て教えた通りだ。いざという時にはいかなる時でも、殿となる方の元へ…」

流ノ介「はい。」

流ノ介の父「まだ見ぬ前の仲間達も、思いは同じだろう。」

幼稚園で女性の先生(茉子)が子供達の相手をしている。

園児「ねえ 茉子先生…。」

茉子「はい順番順番。ほら、皆で遊ぼう皆で、ほら! 」

ゲームセンターで若者達(千明達)が遊んでいる。

千明の友人「千明すげえじゃん!やるねぇ! 」

千明「だろ?俺これ得意なんだって!」 

森の中で一人の女性(ことは)が笛を吹いている。

三人とも、丈瑠や流ノ介が持っている物品と似たような物を所持している。

ここで7分50秒。 1分11秒の間では以下の事が伺える。

家臣の一人である流ノ介は代々志葉家に仕える池波家の人間。

・家臣四人は全員違う家系の人間。

・構成員は男二人、女二人。

・お互い面識はなく、実戦経験もなさそうだが準備はしてきたらしい。

・丈瑠も含めて何か共通の装備がある。

シンケンジャーとなる家臣四人の概要がまとめられている。特に大事なのは4番目にある、

「お互い面識はなく、実戦経験もなさそうだが準備はしてきたらしい。」

という点だ。

ここが殿である丈瑠との大きな違いになっている上に、彼らに説明する形で更なる番組の追加情報を視聴者に伝えていける体制が整った。これはBパートの戦闘に活きてくる。

また、番組冒頭で丈瑠が使った装備(獅子折神)と同等の物を家臣達も全員持っている事が分かった。これも、Bパートの戦闘への伏線となっている。

 

この後カゲカムロが人間界に進行してくるわけだが、その事を彦馬が察知したシーンを見てみよう。8分17秒から。

シーン5

屋敷の縁側で、丈瑠が獅子折神を手にしてくつろいでいる。

そこへ彦馬が駆け寄る。

彦馬「殿!殿!外道衆ですが、ナナシ連中よりさらに力のある、アヤカシまで動き出したの事。もはや一刻の猶予も、侍たちを呼び出しまする!」

丈瑠「待て!俺一人でやるって言っただろ!?」

彦馬「いつまでその様な事を、意地を張ってる場合ではありませんぞ!ドウコクの強さはご存知のはず!」

丈瑠「だからだ!だから、そんな奴との戦いに巻き込んでいいのか!?会った事もない奴らを…」

彦馬「亡き父上のお言葉、お忘れか!?」

(回想)

炎に包まれた館の中で、満身創痍の男性(丈瑠の父)が少年(幼少期の丈瑠)に近づく。

丈瑠の父「忘れるな!今日からお前が、シンケンレッドだ!」

丈瑠の父、獅子折神を丈瑠に渡す。

丈瑠の父「決して逃げるな!外道衆から、この世を守れ!」

彦馬「侍として生まれた者の宿命。皆覚悟はできてるはず。そして、それは殿も同じ。辛くとも、背負わなければなりません!」

彦馬が矢文を放つと、流ノ介たちの元に届いていく。

ここで9分54秒。この1分37秒でわかる事は以下の3つ。

・外道衆にはナナシ連中と上位種であるアヤカシがいる(この後カゲカムロの台詞や戦闘で両者がより明確に区別できるようになっている)。※9

・丈瑠が家臣の招集に消極的なのは、強大な敵との戦いに見ず知らずの他人を巻き込む事への抵抗感からだった。

・過去のドウコクとの戦いで丈瑠の父は死に、シンケンレッドの座を託された。※10

ここではシーン1~4の内容を踏まえた上で、主人公である丈瑠の掘り下げが改めて行われている。

これは私個人の感想になるが、当初丈瑠が家臣の招集を頑なに拒み、「俺一人でいい!」と主張したのは、単に自分の力を過信していたからだと思っていた。

「ああ、それでこの後の戦闘で一人で戦い抜く事の限界を痛感し、家臣招集を決断するんだな。チームワークを重んじる戦隊らしい筋書だ。」

などと予想していたが大外れだった。丈瑠は自信家などではなく、誰よりも戦いの過酷さ、外道衆の恐ろしさを知っているからこそ、赤の他人を巻き込む事を嫌う、正義感が強く情け深い人物なのだ。

さらにそこから間髪入れずに戦死した父親との回想シーンを挟む事で、より説得力を持たせる。第一話から誠に丁寧な心理描写である。ここで私の中でも丈瑠への好感度が一気に増した。

そしてこれらシーン1~5の内容が、この後召集に応じた家臣四人の前で丈瑠が言う、

「最初に言っておくぞ。この先へ進めば、後戻りする道はない。外道衆を倒すか、負けて死ぬかだ!それでも戦うって奴にだけ、これ(ショドウフォン)を渡す。ただし、家臣とか忠義とか、そんな事で選ぶなよ。覚悟で決めろ!」

という台詞に繋がってくるのだ。

 

また、シーン1、2、5を振り返ると彦馬の台詞に説明台詞がかなり多い事がわかる。※で記したチェックポイント10個は、いずれも彦馬の台詞がきっかけだ。これだけ説明台詞が多いと、下手なドラマなら不自然さやくどさが目立ってもおかしくないが、こと「シンケンジャー」においてはそのような違和感は全くない。これもひとえに、メインライターを務めた小林靖子氏の台詞回し、そして彦馬役の伊吹吾郎氏の演技力や貫禄の賜物だろう。

 

さて、次はとうとう結成されたシンケンジャーの戦いを見てみよう。少し時間を飛ばして、19分04秒から、

シーン6

シンケンレッドの攻撃で爆死するカゲカムロ。

その様子を見る家臣達。

シンケンイエロー(ことは)「凄い…殿様…」

シンケングリーン(千明)「俺も凄いぜ。結構できるじゃん!」

シンケンピンク(茉子)「何とかなったってレベルね……」

シンケンブルー(流ノ介)「殿!」

レッド「油断するな!アヤカシは命を二つ持ってる。今のは一の目だ。すぐ二の目が出るぞ。」

家臣達「えっ?」

カゲカムロが巨大化して復活。

カゲカムロ「貴様ら、叩き潰してやる!」

カゲカムロが反撃に出る。

グリーン「ありかよ!これ!?」

ピンク「そういえば、そんな話聞いたような…」

ブルー「不勉強だぞ。こういう時のために、これがあるのを忘れたのか!?」

ブルーが龍折神を取り出す。

ブルー「折神。それぞれ受け継いだ文字の化身だ。自分と一体化する事で、二の目のアヤカシとも…」

レッド「お前も前置きが長いな。」

シンケンレッド、ショドウフォンと折神を構える。

レッド「獅子折神!折神大変化!」

獅子折神にショドウフォンで「大」の文字を印すと、獅子折神が巨大化。

レッドはコックピットに乗り込んでシンケンマルを搭載する。

ブルー「ああっ、申し訳ありません。すぐに!龍折神!」

ピンク「亀折神!」

グリーン「熊折神!」

イエロー「猿折神!」

家臣達「折神大変化!」

全員それぞれ自分たちの折神に「大」の文字を記し、折神を巨大化させる。

巨大化した折神達が進撃する。

カゲカムロ「来よったな!?」

 

ここで20分37秒。この1分半の間では以下の事が伺える。

アヤカシは命を二つ(一の目と二の目)持っている。

・二の目が発動すると巨大化して復活する。

・二の目のアヤカシに対抗する手段として折神がある。

折神は各家系が受け継いだ文字の化身。

・折神は普段手の平サイズだが、巨大化させる事が出来る。

要するに戦隊のお約束、巨大戦の説明だ。

スーパー戦隊シリーズでは、等身大の敵怪人が倒されると何らかの手段で巨大化して復活し、再び暴れる事がお約束となっている(一部の作品を除く)。戦隊はその度に巨大メカやそれに相当する装備を発動し、敵に対抗するのだ。

シンケンジャー」では巨大化の手段を二の目、対抗手段を折神と設定し、シーン1、4、5で折神の伏線を張っている。

 

なお、戦隊では最終的に巨大メカ等が合体して巨大ロボット(この作品を筆頭に、設定上純然たる精密機械でない場合もある)になるのもお約束だが、本作品では尺の都合でそこまでは行かず、第二幕にお預けとなっている。

 

さて、ここまで「侍戦隊シンケンジャー」第一幕のシーン6つを分析してきたわけだが、相当の情報量がある事がご理解いただけたと思う。これらは全て、本文の序盤でまとめた

・主要登場人物

・世界観

・基本設定

というテレビドラマの三大要素を伝えるためだ。しかもそれらを丁寧に、かつテンポよく視聴者に提示している。

「番組の魅力をしっかりと伝えて、視聴者の心をしっかりと掴む」という「第一話」の使命を十二分に果たしたと言えるだろう。

この完成度の高さと内容の濃さが、「第一話としてほぼ完璧な出来」という私の結論の理由なのだ。

そして、「シンケンジャー」という番組の凄まじい所は第一幕で提示されたこれらの情報の中には「裏」があるという点である。物語が進むにつれ、その意味が次第に明らかになっていく。詳しい説明は控えるので、未見の方は是非楽しみにしていただきたい。

ぷ・ぶん殴られ事件は何故笑えるか

有田「この記事は『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン 第44回』を聞いてから読んでいただけるとありがたいと存じております。」

上田「だから、『存じて』の使い方間違ってるだろ!」

 

2018年8月31日、人気ラジオ番組「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン(以下、くりぃむANN)」が復活した。

 

この番組は2005年7月から2008年12月に約3年半に渡って放送され、3年半のレギュラー放送が終わっても根強いファンが復活を待望していた。

そして2016年6月、およそ8年ぶりに一夜限定で復活。以降2016年12月、2017年5月、そして2018年8月と度々特番で復活している。

 

「くりぃむANN」の魅力は、何といってもくりぃむしちゅーの二人が繰り広げる絶妙な会話の応酬、そしてありとあらゆる人物が笑いのネタになる幅の広さだ。

芸人、マネージャー、ラジオスタッフ、ハガキ職人など枚挙に暇が無いが、「その中で特に印象に残ったのは?」と聞かれたら、この番組のファンの多くは熊本県立済々黌高等学校ラグビー部の面々を挙げるのではないだろうか。

 

熊本県立済々黌高等学校ラグビー部とはくりぃむしちゅーが学生時代に所属していた部活であり、第44回の放送の際、有田が上田の記憶力をテストするという口実でラグビー部の話題を出したところ、リスナーから大好評。その結果、続く第45回は「ラグビー部祭り」と称して、高校時代の部活の話だけでスペシャルウィークをこなすという前代未聞の事態となった。

 

済々黌ラグビー部がこの番組に与えた影響は極めて大きく、その後の放送でもくりぃむしちゅーが度々名前を出すばかりか、レギュラーコーナーでラグビー部に纏わるネタハガキが投稿されない日はほぼ皆無と言っていいほどになった。

そんなラグビー部の話の中でも群を抜いてインパクトがあったのが、今回のタイトルにもなっている「ぷ・ぶん殴られ事件」である。最初にその一部始終が語られてから12年以上経った今年8月の復活放送でも、この事件を元にしたネタが送られてきた位だから相当な物だろう。

 

が、冷静に考えるとこの「ぷ・ぶん殴られ事件」、かなり悪質だ。はっきり言って笑い話には程遠い内容だったりする。

概要を掻い摘んで説明すると、

ラグビー部の監督が部活動で部員達にボールを扱う技術指導を行うため、部員の一人を相手選手役で起用した。

その際、本来なら監督が相手選手役の部員からボールを奪い取る工程を見せるはずが、自身の力不足でボールを奪取できず、ボールを獲得したのは部員の方だった。

直後、監督は部員を殴り倒してボールを強奪した挙句、あたかもそれが正攻法の手段であるかのように振舞った。

・・・これは酷い。近年パワハラや人権侵害が様々な競技で生じている事が浮き彫りになり、スポーツ界全体が大きな騒ぎになっているが、それらとは根本的に次元の違う問題である。何せ体罰やラフプレーですらなく、完全な八つ当たりなのだから。今同様の事件が起きたら、間違いなく指導者には厳罰が下されるだろう。

 

と、常識で考えればそうであるにも関わらず、この放送で「ぷ・ぶん殴られ事件」を聞いた時、私は思わず笑ってしまった。そして他のリスナーの多くもそうだったからこそ、ラグビー部ネタは今でも鉄板の題材になっているのだ。

それはひとえに人気お笑いコンビ・くりぃむしちゅーの話術の賜物なのだが、せっかくなのでその詳細を素人なりに分析してみようと思う。

 

上田「おい!俺を分析するのは・・・」

自分「何か!」

上田「いや、だから分析・・・」

自分「何か!」

上田「だから・・・」

自分「何か!」

上田「はい・・・どうぞ。」

自分「じゃあ始めるもんね。」

 

ポイント1:ラグビー部の話を何例か出してリスナーを慣らさせた。

まず、くりぃむの二人はいきなり「ぷ・ぶん殴られ事件」の話をしたわけではない。先に述べた記憶力テストで一番最初に有田が名前を出したのはラグビー部顧問の黒瀬直邦先生で、次はラグビー部の米森先輩、「ぷ・ぶん殴られ事件」に話が移ったのはその後だ。

そしてこの一番手たる黒瀬の話の時点でくりぃむはリスナーの心を鷲掴みにしたのである。

あだ名が音読みで「ちょっくに」だの、直の字を頭に持ってきて「直瀬(なおせ)」ならまだしも「直瀬(じきせ)」だの、いかりや長介に似てる感じがしたから「いか長」だの、「黒瀬」をひっくり返して「瀬黒」だの、この下りを聞くだけでも

「あ~、俺も学校の先生に変なあだ名着けてたな~!」

とリスナーはくりぃむの話に親近感を覚え、引き込まれていった。

そこから畳み掛けるように、大事な試合の前日、監督(「ぷ・ぶん殴られ事件」の元凶たるマサキヨ監督)が部員を叱咤激励しているのにも関わらず、

「ちょっとよかですか?」

といきなり乱入した挙句、

「お前達は学生だね?」

と答えが分かりきっている不可解な質問をした上に、

「だったらまず今日は帰って、明日の試合よりもまず宿題をしろ!」

と、「いやそれも大事な事だけど、この流れで普通そんな事言いますか?」と問いかけたくなるような空気の読めない発言をした事が明かされる。

おまけに、

部員「いやでも、明日は!」

黒瀬「何か!」

部員「試合が!」

黒瀬「何か!」

部員「大事な!その、」

黒瀬「何か!」

部員「大事な!」

部員「はい・・・」

黒瀬「何か!」

部員「はい。」

黒瀬「よし。え~、僕から以上!」

と後にハガキ職人が何かと引用する事になる、相手の発言をとにかく強引に封じる「何か問答」も披露された。

この余りにもマイペースすぎる一連の黒瀬の下りだけで、済々黌ラグビー部ってのは随分と個性的な人がいる所なんだな」という印象をリスナーに与える事に成功し、有田が新しい名前を出す度に「次はどんな面白い奴が来るんだ?」という期待感をリスナーは募らせていったのである。

さらに、続く米森先輩の話をする際、頓珍漢な交代の指示を出したのが先のマサキヨ監督だったり、交代されそうになったのが「ぷ・ぶん殴られ事件」の被害者である中瀬だったりと、くりぃむしちゅーが狙っていたわけではないにせよ、結果的に事件についてある種の前フリや伏線になっていたのもささやかながら効果を発揮していたかもしれない。

 

ポイント2:当事者の名前でまず笑わせる

黒瀬先生、米森先輩と来ていよいよ「ぷ・ぶん殴られ事件」に入るわけだが、事件の内容に触れる前にまずは当事者の紹介で一笑い頂きにいくのがくりぃむ流だ。

上田「例えば『おい中瀬~!』とかって言った時、普通だったら『ん?』とかっていう、その『ん?』が『ぷ?』に聞こえる。」

一同「(笑)」

上田「ぷ!」

有田「はいはい。」

上田「『ん?』が『ぷ?』に聞こえる。」

有田「『ぷ?』」

上田「『ぷ?』」

一同「(笑)」

上田「『な、何~?ぷ?』っていう感じで喋ってたから、」

有田「あだ名が?」

上田「だからあだ名が『ぷ』。」

一同「(笑)」

上田「もうその一文字。史上初だろうな!一文字のあだ名は。」

有田「一文字のあだ名ね。」

と、この度の事件の当事者となる中瀬のあだ名がたった一文字「ぷ」という、どうでもいい上に下らない、が、それ故につい笑ってしまう情報が提示される。この「ぷ!」の破壊力は本当に強烈で、困ったら「ぷ!」で強制的にオチをつけるネタハガキも多く投稿された。

 

ポイント3:事件名でも笑わせる

名前だけで笑わせてくれたぷ。もうこの時点で「さあ、こいつにはどんな面白い出来事があったんだ。早く話してくれ上田に有田。」とリスナーは期待せずにはいられない。しかし、ここから本題に入る前にさらにもう一笑い、大好きなウケを狙う貪欲さがくりぃむの神髄だ。

有田「じゃあ(『ぷ』こと中瀬が関わった)その中の一つの事件、代表的な事件を一つ言いなさい。」

上田「代表的な事件~?いや、本当にいくらでもあるんだって。」

有田「いやでも代表的な事件よ。」

上田「代表的な事件ね~。じゃあ・・・」

有田「何事件?

上田「あ~、じゃああれか。お前が求めてんのはわかったわ。」

有田「何?

上田「え~、『ぷ・ぶん殴られ事件』だろ?」

有田「はい。『ぷ・ぶん殴られ事件』です。

一同「(笑)」

有田「題しまして『ぷ・ぶん殴られ事件』。」

上田「っていうのを、」

有田「まずこの響きで、『ぷ・ぶん殴られ事件』って響きが面白いなって事で、そこで流行ったんですよね。」

上田「だいたいさ、普通さ、あんまりそういう事件名をさ、歴史的出来事みたいにつけないよな。高校生がさ。」

有田「まあ『上田ぶん殴られ事件』とかだったらいいけど、『ぷ』、『ぷ・ぶん殴られ事件』。」

上田「がはははは(笑)」

有田「『ぷ』で一回切るところで(変な面白さが出る)。」

この様に、有田も指摘しているが事件名である「ぷ・ぶん殴られ事件」という響き自体が既に愉快すぎる。「殴られ」という不穏な単語が入っているにも関わらず、どこか楽しい雰囲気を醸し出しており、「一体どんな内容なんだ?」とつい気になってしまう。正にネーミングの勝利と言わざるを得ない。

 

こうして本題に入る前から当事者と事件の名前だけで既に最低2回、その前のラグビー部関係の話も加えると、それ以上の回数でリスナーは笑ってしまっている。こうしてくりぃむの会話の波に乗ったリスナーは完全にラグビー部の虜になり、続く「ぷ・ぶん殴られ事件」でも笑う態勢がしっかり整ってしまったのだ。

 

ポイント4:加害者をひたすら小馬鹿にする

こうした長い前置きを経て、ようやく「ぷ・ぶん殴られ事件」の本題に突入するのだが、ここでも重要な点を見つけた。それは中瀬を不当にぶん殴った今回の元凶、マサキヨ監督を要所要所でコケにしている事だ。

上田「俺らがまあ高校一年生、まあラグビー部入って一ヶ月経つか経たないかぐらいよ。」

有田「はい。」

上田「ね、あの~、(マサキヨ監督が)一年生に色々とこうルールを教えたりとかするわけ。」

有田「はい。」

上田「『じゃあ二年生、三年生、お前らはこれからこの練習やっとけ~!』って言って、『よし、一年生。はい、え~もういっちょ集合!』みたいな感じで。」

有田「(笑)」

上田「あの、このマサキヨさんの口癖ってのが、」

上田・有田「『もういっちょ集合!』」

一同「(笑)」

上田「朝一でも『もういっちょ集合!』だよ。まだ一回も集合してねえのに、」

有田「余談ね。」

上田「『もういっちょ集合!』」

有田「あくまで余談だけど。」

上田「これあくまで余談ね(笑)」

 こんな思わず余談で突っ込みたくなる変な呼びかけから、

 

上田「その時の練習が、『高いボールを取るにはどうしたらいいか。』っていう。」

有田「まあ基本的な話ですよね。」

上田「まあ、ルールって言うよりは練習方法だよね。」

有田「はいはいはい。」

上田「で、高いボールが来ましたと。ね、その時にどうやったら取れるかっていう話をマサキヨがし始めたわけ。」

有田「背がちっちゃいんだよね監督ね。」

上田「『俺の身長は165cmぐらいだ。でもこんな低い奴でも高いボールを取る方法があるんだ。よし、ちょっと証明しよう!』ってなって、『え~中瀬!ちょっと来い。』中瀬は186cmあるわけ。あいつは。」

有田「普通争ったら、背が高い奴がバスケットと同じで(ボールを)取りますよね。」

上田「そうそう。だから誰かもう一人にね、『ちょっとボールを俺と中瀬のお互いの頭の間の上ぐらいにポーンと飛ばしてみ?』って言いました。『いいか。俺がまず立ったままで取れるかどうか試してみよう。はいボール上げろ!』ポーン。パチ!そりゃ中瀬が取るわけ。」

有田「背が高い方がポンと取りますよね。」

上田「186cmだからね。『ただ、こういう中瀬のような背の高い奴を上回る方法がある!』って言って。」

有田「何だ画期的な。」

上田「画期的な(笑)、マサキヨが、5m位後ろに下がったんだよな。後退りして。『よし、中瀬の頭の上にボールを上げろ!』で、ボーンと(ボールが)行ったら、ダダダダダダダ!って走ってきて、ボーン!とジャンプしたんだ。」

有田「そう!」

上田「全然画期的でも何でもねえ!」

有田「ただジャンプして取る!」

一同「(笑)」

有田「これを教えたいわけ。高いボールを取る時はジャンプして取れば、」

上田「ハハハ!言えばいいよ(笑)」

有田「背が高い人よりも!取れるんだと。」

上田「でもじゃあ背高い奴がジャンプしたら、」

有田「終わりじゃねえか。

上田「やっぱり負けじゃねえか(笑)、みたいな事なんだけど。」

上田プロパンのガス並みに中身の薄い技術指導。 

こうしてマサキヨ監督を随所でいじる事により、「マサキヨ監督もこれまでの面子に負けず劣らず面白れえなあ。」とリスナーに思わせていく。

そして・・・

 

上田「で、タタタタタ、ドーン!と(マサキヨが)ジャンプして、パーン!って、(ボール)取ったのまた中瀬だったんだよ。」

一同「(笑)」

上田「ジャンプしても届かなかったんだよ(笑)」

有田「中瀬のとこに(ボールが)スポッと入ったんだよ。」

上田「ハハハ!(笑)」

有田「(マサキヨは)取れなかったの。」

上田「全然マサキヨ取れなかったんだよな(笑)。ボールな。そのボールを。で、マサキヨどうしたかっていうと、『あれ!?ヤベえ!』ってなってるじゃんか。」

有田「皆見てるから。」

上田「皆見て、『こうすれば取れる!』って言ったのに取れなかったから。そこでマサキヨがやった事が、中瀬のボディにパンチを入れて(笑)」

一同「(笑)」

上田「体をくの字に折らせてボールを奪うっていう(笑)」

有田「最初はね、跳んでたんだよね。一生懸命。スポーンって入った後もずっと跳んで。」

上田「跳んで、中瀬から取ろうとしたけど。」

有田「で、届かないから(笑)パンチ、バン!ボコ!って入れて、(中瀬がボールを)ポロってやったとこボン!って取って、こっち側に来て、一言ね。」

上田「『な、そうだろ?』って。」

一同「(笑)」

上田「違うよ(笑)。そんな方法は無しだよ。何が『な!』だよ。同意できねえよ(笑)」

 

遂に中瀬が殴られるという話の核心に触れる際もマサキヨいじりを欠かさない。、

この徹底した姿勢が、「ぷ・ぶん殴られ事件」の印象を「監督が生徒に振るった理不尽な暴力沙汰」ではなく「間抜けな奴等の珍騒動」に変えていったのだ。

 

というわけで改めて要点を整理すると、

「まず他のラグビー部関係者の話でリスナーを引き込む」

「核心に触れる前に当事者の名前で笑わせる」

「更に事件名でも笑わせて勢い付かせる」

「加害者も笑い者にして不快感を中和させる」

更にこれに加えて「そもそも事の経緯が余りにも無茶苦茶」も大きな要因と言えるかもしれない。

もし、「ぷ・ぶん殴られ事件」が上に挙げたように体罰やラフプレーの強要などによるものだったら流石のくりぃむしちゅーもラジオで扱えなかった可能性がある。

だが実際の内容は、「身長差のハンデを越えて自分が鮮やかにボールを取るはずが、全力でジャンプしたのに立ってるだけの生徒に敵わなかった。なので殴って取った。」

もはや子供の喧嘩並に馬鹿馬鹿しすぎる理由だ。余りにもアホらしくて、「真面目に突っ込む気すら失せる」次元に到達し、「低レベルすぎて笑うしかない」事態に至ったと言えよう。もちろん殴られた中瀬からすれば大迷惑だが。

 

意図的であったりそうではない要素も入り混じっているだろうが、「ぷ・ぶん殴られ事件」が番組を代表する笑える思い出話になった理由はこんな所だろう。

しかし、繰り返しになるが「ぷ・ぶん殴られ事件」は人気お笑いコンビ・くりぃむしちゅーが話すからこそ笑えるのだ。もし21世紀の現在、同様の事態に直面したら毅然とした態度で然るべき行動を取ることをオススメする。僕から以上!

で、いつになったら音源出ますか?

音楽を聴く手段は年々多様化している。

昔ながらにCDを買ったりレンタルする人もいれば、ダウンロードで入手したり、最近ではAmazon Music Unlimitedなどの定額聴き放題サービスを利用する人も多いだろう。

しかし、聴く手段がいかに多様化しようとも音源自体が市場に出ていなければどうしようもない。

そこで今日は「CDでも配信でもいいから音源出して!」という個人的な願望を吐き出す事にしよう。

 

No.1 「ZORRO」/遠藤正明


Kaiketsu Zorro Opening

1996年、NHK衛星第2テレビジョン(現BSプレミアム)で「快傑ゾロ」というアニメが放送されていた。ジョンストン・マッカレー原作の小説を元に作られた、仮面の男ゾロの活躍を描いた英雄譚だ。

「ZORRO」はそのオープニングテーマであり、後に「勇者王ガオガイガー」の主題歌「勇者王誕生!」で一躍アニメファンの間でも有名になる遠藤正明氏が歌唱している。

冒頭の疾走感溢れるギターのイントロから一気に曲に引き込まれる。OP映像では更に、SEに合わせて主人公ディエゴがゾロに姿を変える様が映し出され最高にカッコいい!

そして本放送からずっと覚えていた歌詞が以下のフレーズである。

「どこかで誰かが笑顔取り戻す ZORROという文字を見つめて」 

虐げられた弱者のために戦い、街の希望として絶大な支持を得ながら、一切の見返りを求めず皆の前から静かに去っていく。

ゾロの強さ、気高さ、そして孤高を歌った名曲である。

そんな名曲でありながら、2018年現在CDや配信といった音源化は全くなされていない。

一応CD音源自体は出てはいるのが、アコースティックVerのライブ音源というかなり特殊な代物しかないのが現状だ。

アコギな二人旅だぜ!!LIVE:FINAL DAY
 

 

No.2 「誓い」/遠藤正明


Kaiketsu Zorro ED

快傑ゾロ」からもう一曲、こちらはEDである。遠藤氏といえば上に挙げたOPや「勇者王誕生!」、JAM Projectの活動などで熱く激しい曲のイメージが強いが、こういったバラードも実に聴かせてくれるのだ。

こちらは確認した限り、アレンジ含め一切の音源が販売されていない。そもそも2番が存在するのかどうかさえ不明だ。

快傑ゾロ」自体マイナーな作品で、BDはおろかDVD、VHS、LDなどどの媒体でもソフト化はされておらず、動画配信もない。

遠藤氏は現在も精力的に音楽活動を続けており、何とか主題歌だけでも歴史の闇から拾い上げて欲しいところである。

ちなみに、遠藤氏のファーストアルバム「CHAKURIKU!!」に収録されている「Oath ~誓い~」は全く別の曲なので注意。

 

No.3 「YAHHO!! かなめもVer.(フルサイズ)」/堀江由衣


【「BEST ALBUM」9月20日発売!】 「YAHHO!!」/堀江由衣 CM SPOT③

2009年に放送されたTVアニメ「かなめも」のエンディングテーマ。アニメ本編にも出演している声優の堀江由衣が歌唱している。上にCM動画があるように、この曲自体はシングルCD化されている。更には各種配信サイトでも販売中で、入手は容易だ。

しかし、ここで挙げたいのは「かなめもVer.」である。これはTV放送用のバージョンで、要所要所にコールが入っているのだ。特にサビ前の「Y!A!H!H!Oh~! YAHHO!!」の部分はライブでファンがコールするのがお約束となっている。

そのコールの楽しさに慣れた人や、TVでこの曲が気に入った人にとっては、コールの無いオリジナル音源は少し物足りなく感じてしまうのではないだろうか。

かなめも」は放送中にキャラクターソング集とサウンドトラックを兼ねたCDを販売しており、「YAHHO!! かなめもVer.」も収録されてはいるのだが、残念ながらTVサイズのみで、フルサイズは収録されていない。

また、「YAHHO!!」は堀江氏のオリジナルアルバム、並びにベストアルバムにも収録されているが、いずれもシングルと同じ、コールの無いオリジナル音源である。

ここまで来るとかなめもVer.のフルサイズが出る可能性はほぼゼロといっていいだろう。1番と2番で大きくメロディーが変わる楽曲でもないので、いっその事音声編集ソフトでも用意して自分で作った方が早いかもしれない。

 

No.4  「アイドルになっちゃうぞ」、「Na・de・shi・ko探偵」、「Berry Very Good Love」、「アチチッ」/やまとなでしこ

いきなり4曲も並んでいるが、諸事情によりまとめて記載する。

やまとなでしことはNo.4で紹介した声優の堀江由衣と、同じく声優の田村ゆかりによるユニットである。1999年にラジオ番組「SOMETHING DREAMS マルチメディアカウントダウン」内で結成。正式な解散・休止等は宣言されていないが、2003年のファーストライブツアー以降表立った活動はしていない。

上に挙げた4曲はそのライブツアーで初披露された曲だ。

楽曲が初披露されたのがライブツアーで、そのライブツアー以降ユニット活動はしていない。すなわち、この4曲の音源は出ていないということである。それどころかこのライブツアー自体、DVDなどのパッケージ化が一切なされていないため、実際に会場に足を運んだ者しか耳にしていない文字通り幻の楽曲となっている。はっきり言って私もユニットバージョンに関してはどれも聞いたことがない。

唯一「Berry Very Good Love」のみ、それぞれの単独公演で披露された事があり、更に両公演ともパッケージ化されているため、これはこれで入手が難しくなってはいるものの、楽曲の視聴自体は一応可能だ。私も堀江氏の武道館ライブに参加したため、この曲だけは聞くことができた。

田村ゆかり さまぁらいぶ☆2004*Sugar Time Trip*DVD

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堀江由衣をめぐる冒険2~武道館で舞踏会~Q&A [Blu-ray]

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しかし、それ以外の3曲についてはライブ音源すら無く、どういう楽曲か確認することさえ出来ない状態だ。現段階では「Berry Very Good Love」同様、どちらかの単独公演等で披露される機会を待つしかなさそうである(「アチチッ」に関しては2004年に堀江氏のファンクラブイベントで歌われたという情報がある)。

いずれにせよこれらの楽曲がちゃんと「やまとなでしこ」名義で、CDなり配信なり正式な形で世に出たことはなく、今後も出る兆しは全く無い。

それ以前に正式なレコーディングすらまだしていないだろう。今回挙げた中では、間違いなく最も希少性が高い楽曲といえる。

 

No.5 「Rush!!ウルトラフロンティア!!」/竹内浩明

データカードダス「大怪獣ラッシュ ウルトラフロンティア」のテーマソング。

「大怪獣ラッシュ」はウルトラシリーズで有名な円谷プロの創立50周年の新事業展開の一つとして2013年に始動。バルタン星人、ガッツ星人などおなじみの異星人達が主人公で、地球を狙う悪の侵略者ではなくハンターとして危険な怪獣を狩るという内容だ(2015年にサービス終了)。

「Rush!!ウルトラフロンティア!!」はその主題歌・挿入歌としてゲームのプロモーションビデオや短編アニメで使用された。

一見他のシリーズと遜色ないヒロイックな歌に聞こえるが、本家のウルトラマン作品にはない作風・設定が歌詞にも反映されている。

特にサビの終盤にある「使命と欲望が渦巻くこの銀河で勝利をつかみ奪れ!」というフレーズは、登場人物の誰もが様々な思惑や過去を抱えている、正義も悪も無い本作独特の世界観を表していてお気に入りだ。

しかし残念ながら、この曲も現在に至るまで音源のリリースは一切されていない。

天下のウルトラシリーズなんだから、どっかで出てるだろと思ったら大間違い。単独でのCD化や配信はもちろん、度々発売されている主題歌集などのアルバムCDにも尽く未収録なのだ。

例えば2016年3月にシリーズ50周年を記念して発売された「ウルトラマンシリーズ放送開始50年 ウルトラマン主題歌大全集 1966-2016」

怒涛の5枚組全99曲のボリュームで、この手のアルバムでは未収録かカバー楽曲で処理される事の多かった「ウルトラマンティガ」の主題歌「TAKE ME HIGHER」が本家本元のV6バージョンだったり、権利関係の都合で作品自体が幻の存在と化していた映画「ウルトラ6兄弟 VS 怪獣軍団」の主題歌である「ぼくらのウルトラマン」までもが収録など、奇跡のようなラインナップで、正に『ファン待望の主題歌集アルバム』と公式が謳うに値する一品だ。

さらに同年12月には「ウルトラマン 主題歌・挿入歌 大全集 Ultraman Songs Collected Works」が発売。

こちらは先の主題歌大全集を更に上回る12枚組全263曲という大ボリュームで、主題歌、挿入歌に加え、イベントやバラエティ番組など企画ものの曲やイメージ・ソングまで網羅されており、50周年を締め括るにふさわしい集大成と呼ぶべき内容に仕上がっている。

ところがいずれのアルバムにも「Rush!!ウルトラフロンティア!!」は収録されていない。そして、これ以降に出た主題歌集の類にも一切収録されていないのだ。

「大怪獣ラッシュ」の後に展開されたデータカードダスウルトラマン フュージョンファイト!」の主題歌は早々にCD化や配信が実現しただけに、「何故ラッシュだけこんな扱いなのか・・・」と思わずにはいられない。

 

No.6 「蛍(劇場公開Ver.)」/サザンオールスターズ


サザンオールスターズ - 蛍

2013年公開の大ヒット映画「永遠の0」の主題歌であり、歌うは国民的バンド、サザンオールスターズ。当然ながらこの楽曲もちゃんとリリースされており、入手する手段はいくらでもある。

が、「劇場公開Ver.」となると話は別だ。

これは有名な話なので今更説明するまでも無いかもしれないが、映画のエンドロールで流れる「蛍」はCD音源と違って間奏に飛行機のエンジン音が入っている。

些細な演出ではあるが、これで歌と作品の結びつきがより増したように思う。何らかの形でこのバージョンも音源化されたら嬉しいが、あくまでエンドロールの中で映画と一体になった形でのみ味わうのが正解なのかもしれない。

他にも「ジーンダイバー」のサントラ(メインテーマが名曲!)だとか、「ビーストウォーズリターンズ」の海外版PVで流れた「Evolution Revolution」だとか願望は尽きないが、キリが無いのでこの辺にしておこう。

 

最後に、「CD化してほしいけど、流石にもう無いだろう。」と思っていたら実現した事例を紹介する。

 

番外編「詩人の旅(ピアノイントロVer.)」/茅原実里


[Official Video] Chihara Minori - Shijinno Tabi - 詩人の旅 茅原実里

2007年に発売した、声優・茅原実里の歌手活動再開後のファーストアルバム「Contact」のリード曲である。MVではピアノイントロから曲が始まっており、当然アルバムでもその通り収録されていると思いきや、実際はその前の曲のアウトロと直結しており、そのまま間髪入れずに始まる構成になっていた。

それはそれで一体感や勢いがあって好きなのだが、「詩人の旅」を単体で聴こうとしたら、当然ながら曲の途中からいきなり再生するような状態になってしまい、ピアノイントロVer.の音源化を早くから待ち望んでいた。

 「Contact」発売から2ヵ月後に出たミュージッククリップに、ボーナスディスクとして新曲入りのCDが付くと聞いた時は、「いやいや新曲もいいけど、ここでこそ『詩人の旅』のピアノイントロVer.も収録すべきでしょ!」と叫んだものだ。

Message 01 [DVD]

Message 01 [DVD]

 

結局CD化も配信の報せも無いまま月日が経ち、流石にもう無理かなと諦め出してきた2014年、ベストアルバム「SANCTUARY」の発売が決定。これまでにリリースされた全シングル表題曲に加え、各アルバムのリード曲も収録されていたのだが、何と「詩人の旅」はピアノイントロVer.だった!

 

SANCTUARY~Minori Chihara Best Album~

SANCTUARY~Minori Chihara Best Album~

 

まさか発表から発売まで7年も掛かるとは予想だにしなかったが、とにかくまたとない朗報だった。 

「SANCTUARY」にはそれ以外にもアレンジが変更になった楽曲があるのでファン必聴の一作である。

とまあこういう事もあるので、上に挙げた9曲も何らかの形で音源化を果たすかもしれない。とはいえ正直なところ、今後その可能性が多少なりともあるのは、ウルトラシリーズ楽曲である「Rush!!ウルトラフロンティア!!」くらいだろう。

何たって円谷プロでは、1970年代に制作された超低予算ミニドラマ「レッドマン」と「ウルトラファイト」のサントラが40年以上経過した2017年に発売したことがあるほどなのだから。

レッドマン&ウルトラファイト オリジナル・サウンドトラック

レッドマン&ウルトラファイト オリジナル・サウンドトラック

 

あ、でもそれ引き合いに出すとあと40年は待たないといけないのか・・・流石にそれは辛いので、もうちょっと早めにCD出してください円谷さん。

 

「名探偵コナン ゼロの執行人」・・・真実、正義、そして愛の物語

4月13日に公開されたシリーズ第22弾、劇場版「名探偵コナン ゼロの執行人」。

封切から2ヶ月を越えた今も上映は続いており、前人未到の6年連続興行収入最高記録更新に加え、累計80億円を突破した。

 

そんな大ヒットの原動力になったのはトリプルフェイスを持つ大人気キャラクター・安室透の存在、そして「正義を貫く者」と称されたその安室と「真実を暴く者」である主人公・江戸川コナンとの対立を通して描く二転三転のストーリーだ。

 

そんな「真実」と「正義」がこの映画のテーマでもあるのだが、3回映画館で執行(鑑賞の意)し、主題歌をダウンロードし、各所の感想・考察に目を通した自分がたどり着いた結論は、この映画は「愛」の物語でもあるという事だ。

 

(注)以下、映画「ゼロの執行人」のネタバレを含みます。

 

今回のキーパーソンとして羽場二三一というキャラクターが登場する。

 

司法修習生だった彼は目指していた裁判官になれず、今回の映画で逮捕された小五郎の担当弁護士である橘境子の事務員として働いていたが、映画本編の1年前、ゲーム会社に侵入していた罪で逮捕、公安警察の取調べを受けた後、自殺した。

 

そして彼の存在がサミット会場爆破を含む、今回の大規模テロ事件が起きた原因だった。そもそも羽場がゲーム会社に潜入したのは、公安検察から潜入捜査を指示されていたためだったのだ。そしてそれを指示した真犯人の日下部検事は協力者だった彼を取調べで自殺に追い込んだ公安警察への怒りから復讐を決意した。

 

公安警察の力が強い限り、公安検事は自らの正義を全うできない!」

犯行が暴かれた際の日下部の台詞である。

 

しかし、日下部の動機は本当に「正義の遂行」だったのだろうか?

 

最初に起こしたサミット会場爆破の容疑者として小五郎が逮捕されたら、「検事として無実の人間を巻き込むわけにいかない」という理由で、小五郎の拘留中に当初の計画に無かったIOTテロを起こしてまで、彼の無実を証明しようとした。

 

とはいえ、本当に正義を遂行する事が目的なら、本当に検事としての良心や使命感が働いたなら、ここでもう出頭すべきだった。はっきり言ってサミット会場爆破の時点で、公安警察の威信は十分失墜している。目的は十分に果たした。そしてそこに想定外の被害者が出た時点で己の失敗を認めるべきだった。

 

そもそも「正義のためには多少の犠牲はやむを得ない!」と後で主張した割に、この小五郎逮捕も犠牲の一部と割り切るような発想が出来なかった。「無関係の人間を逮捕する公安警察め、許さん!」と自分の事を棚に上げて計画を進める図々しさも持ち合わせていなかった。自分に落ち度があることが無意識の内でもわかっていたはずなのだ。

 

おまけに「正義のためには多少の犠牲はやむを得ない!」という主張自体、コナンに「そんなの正義じゃない!」と単純に反論されただけで怯んでしまう。犯行そのものの是非以前に、日下部の中に「自分の行いは『正義』である」という確固たる信念があるようにはとても観えなかった。

 

もし仮に、「本気で『正義のためには多少の犠牲はやむを得ない!』というならば、羽場が公安検察の協力者である事を黙り続け、一人で罪を背負った事も、『この国を守るという彼なりの正義における多少の犠牲の一つ』なのだから受け入れるべし」などと言われたら彼はどう反応するだろうか。

 

厳しい意見だが、劇中でも「前例が無い」と言われた公安検察の協力者という立場に羽場を誘う以上、いざとなれば羽場を切り捨てる事も最初から想定しておかなければならなかった。その決断や覚悟が出来ないのならば、初めから協力者など求めるべきではなかったのだ。

 

「自ら行った違法捜査は自ら片をつける。あなたにはその資格が無い。」

安室が日下部に言い放った言葉だが、実に的を得ていたと言えよう。

 

結局全ては建前で、日下部は羽場を失った怒りをぶつけていただけに過ぎなかった。裏を返せば彼の「正義」はどこまでも不安定で中途半端だったが、羽場への思いだけは一貫してぶれなかったという事である。それこそ日下部本人が言った「肉親よりも強く、一心同体で結ばれている協力者の絆」、つまりは「愛」だったのだろう。

 

もう一人、愛ゆえに今回の事件に介入した者がいる。小五郎の担当弁護士・橘境子がそれだ。

 

密かに公安警察の協力者としての活動もしていた彼女は、かつては羽場の監視を指示され、そして新たに小五郎の弁護を指示された。

 

が、監視対象者である羽場と惹かれ合ってしまい、その結果羽場の死をきっかけに公安警察への恨みを抱き、命令に反して小五郎を起訴させようと画策した。日下部が「協力者の絆は肉親よりも強く一心同体」と言った矢先にこれである。中々皮肉の利いた話ではあるものの、羽場のために暗躍したという意味では二人は同じ存在だ。

 

一方で、その思いの強さには両者の間で大きく差があったようだ。

実は公安警察の計らいで羽場は本当は生きており、日下部は彼の説得を受けて、全ての情報を吐き出し、それでも事態が好転しないと見るや、自らの危険も省みず羽場の救出に向かい、最後は大人しく連行されていった。

逆に橘は羽場の生存に驚くところまでは同じでも、本人の所へ赴いて直接会う事を拒み、羽場とも公安警察とも袂を分かってしまった。

 

「羽場の無念を晴らす」という「目的」のため、「公安警察へ復讐する」という「手段」を取ったところまで日下部と橘は確かに同じだった。しかし最後の最後で橘は公安警察への復讐(より厳密に言えばとにかく公安警察に抗う事)自体が目的になっていた。

 

それは全ての真実を知った時、羽場への愛よりも、それに伴う公安警察への復讐心よりも、最初から最後まで用意周到に事を進めてきた公安警察の掌の上で自分が弄ばれていたような屈辱感、そしてそうやって弄ばれた自分自身に対する怒りが勝ってしまったからだろう。

 

「私の人生全てをあんた達が操っていたなんて思わないで!」

せめて心だけは公安警察に負けぬよう振舞う、彼女なりの精一杯の強がりだった。

 

羽場もそれを理解したからこそ、日下部には「私達は今でも一心同体です。」と言えたが、橘には何も言えなかったのだと思われる。

つまりは日下部の方が橘よりも羽場への愛が深く重かった。それが同じ公安警察への復讐でも、日下部が大規模なテロ事件を起こしたの対し、橘は直接何かを仕掛けることもなく、あくまでテロ事件の事後処理の中で裏をかこうとする程度に留まった理由ではないだろうか。

 

一人の人間に対する各々の愛が迷走し暴走した、そんな映画だったように思う。

 

(追記)

それにしても公安検事と弁護士(兼公安警察協力者)という二人のエリートの人生をこうも狂わせるとは、羽場という男は実に人誑しだ。本音を言えば博多大吉氏ではなく、もっと演技ができる人を起用して欲しかったところである。